うつ病治療の実態に迫る公開ディスカッションに参加

うつ病治療の実態に迫る公開ディスカッションに参加

治験データから読み取るうつ病の軽症化・慢性化

第28回日本臨床精神神経薬理学会・第48回日本神経精神薬理学会の合同年会で行われたシンポジウムにて行われました、うつ病治療の実態に迫る公開ディスカッションに参加しました。

私が提示した議題は「臨床試験から学んだプラセボレスポンス」。近年、治験によるプラセボ効果に変化が出ています。それは、実薬の効果には変化がないか、むしろ低下してきているのに、プラセボ効果が徐々に上昇しているということです。

これに対し私は、市ヶ谷ひもろぎクリニックで行っている治験データをもとにした見解を発表。プラセボ反応の上昇の原因は、臨床治験に軽症うつ病が多く組入られているからではないか。これは、軽症化で慢性化しつつあるうつ病患者が増加しているのではないかという問題を提起しました。

その問いに対してZimmerman先生がコメントをよせ、会場全外でディスカッションを行いました。日頃の臨床疑問の答えが見つかる、とても興味深いシンポジウムでした。

課題は、いかに患者にとって最高な治療を提供するか

「定説は本当に『定説』なのか?-うつ病治療の実態を問う」と題したシンポジウムは、杏林大学医学部の渡邊衝一郎先生が進行役となり、ブラウン大学ウォーレン・アルパート医学校のMark Zimmerman先生が、先生の豊富な研究と臨床経験から、当事者の観点も踏まえた検証と解説をされました。

後段は、東京医科大学の井上猛先生が「うつ、不安症の成因論を問う」、私が「臨床試験から学んだプラセボレスポンス」という話題をご提示し、その問いに対してZimmerman先生がコメントするという形で、公開ディスカッションが行われました。

うつ病とひと言でいっても、重症度・成因・環境など当事者一人として同じ背景はないために、呈する症状も極めて多様です。また、うつ病を治療していくと約3分の1がなかなか寛解しないともされています。このような混沌とした状況で、いかに患者にとって最高な治療を提供するかがいまの課題です。その解決の糸口にあふれた、有意義なシンポジウムでした。

Papakostas GI, Fava M. Does the probability of receiving placebo influence clinical trial outcome? A meta-regression of double-blind, randomized clinical trials in MDD. Eur Neuropsychopharmacol 2009; 19(1): 34-40.
渡部芳德,渡邊衡一郎,平野陽子,浅見優子:近年の抗うつ薬の国内臨床試験におけるプラセボ反応性―そこからみる臨床試験の課題と将来展望―.臨床精神薬理,20:565-579,2017.